「豊かな自然の中で、木を伐って暮らす。なんて素敵なんだろう」
もしあなたがそんなイメージだけで林業に飛び込もうとしているなら、私は全力で肩を掴んで、一度立ち止まるように言います。
多くの現役従事者が「悪いことは言わないから、林業はやめておけ」と口を揃えるのには、感情論ではない、圧倒的な「数字」と「絶望」の裏付けがあるからです。
今回は、あえて林業の目を背けたくなるような「影」の部分を、林野庁の最新データ(令和5年度・R5)をもとに紐解いていきます。そのうえで、林業という仕事の魅力についても語っていきます。

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理由① 労働災害発生率「17年連続」のワースト1位
まず、林業の労働災害の発生率は、全産業の中で「断トツ」のトップです。
林野庁の「林業労働災害の現況」によれば、令和6年度のデータでも死傷年千人率(1000人あたり1年間に発生する死傷者数)は約23.3。全産業平均の2.3に対して、約10倍という異常な水準です。

危険と言われる建設業(4.2)と比較してもその差は歴然です。
令和6年だけでも31人もの尊い命が山で失われています。。
「チェーンソーのキックバック」や「数トンの木の下敷き」……。これらは、十分な知識があっても、山の傾斜や天候といった「不可抗力」によって一瞬で引き起こされる、文字通り命懸けの現場なのです。
理由② 「命懸け」の対価が見合わない:平均年収の低さ
これほどのリスクを背負いながら、給与水準は極めて低いです。
最新の調査でも、林業の平均年収は約343万円。全産業平均の432万円を100万円近く下回っています。
「危険手当」がつくどころか、材木の市場価格が40年前からほとんど変わっていない(むしろ物価を考えると下がっている)現状では、現場の賃金を上げる余力がないのが多くの事業体の苦しい本音です。
燃料費や重機のメンテナンス費だけが上がり続け、経営は常に崖っぷちだと言えます。
理由③ 身体を蝕む「温暖化」と「未知の病」
山仕事は、夏は猛暑、冬は極寒という環境です。
しかし、近年の温暖化はもはや「根性」で克服できるレベルではありません。
さらに、近年深刻化しているのが**「マダニ」**による感染症被害(SFTS)です。
吸血虫による感染症で命を落とすリスクや、獣害被害。
これらは植生の手入れ不足によってさらに加速しており、作業者の身体的な負担は増す一方です。足場の悪い急斜面を、重い荷物を背負って歩き回る。その体力消費は、想像を絶するものがあります。
理由④ 「若手お断り」? 高齢化が生む技術と世代の断絶
林野庁の「林業労働(R5)」データによれば、従事者の約25%が65歳以上の高齢者です。
35歳未満の若年層は全体の17%程度に留まっており、全産業平均(約30%)に比べると、明らかに世代のバランスが崩れています。
現場では、「ベテランの職人技(アナログ)」と「スマート林業(ドローンやICT)」の摩擦が絶えません。
若手が新しいことに挑戦しようとしても、意思決定権を持つ層とのギャップに疲れ果ててしまう……。そんな組織構造も、参入を難しくしている要因です。
理由⑤ 「プロの現場」と「難しすぎる経営」の板挟み
現場で木を伐るだけでも大変ですが、林業経営は本当の魔境です。
林業経営には、以下のような高度な能力が同時に求められます。
- ファイナンス
- 大規模な設備投資を支える資金調達が不可欠。さらに不安定な材価格。
- 補助金なしでは成立しない独特の収支構造。
- 法律と行政
- 伐採届に始まる山林を対象とした複雑な規制/届け出の理解が必要
- 行政とのPM的なプロジェクト推進、膨大な補助金申請事務。
- 調整力
- 境界が不明瞭な山主たちとのコネクション構築&適宜土地の集約も必要
- 現場力
- いわずもがな必要
- 単に切るだけではなく、長期的な目線での伐採・育林計画を立てられる必要がある
- 炉網整備といった建設よりの知見も不可欠
「山が好き」という動機だけで入ると、この「泥臭い事務と政治」の波に飲み込まれて、キャリアの先が見えなくなります。
それでも、林業には「希望」があるのか?
ここまで「やめておけ」という理由を書き連ねましたが、私自身は埼玉県飯能の山で、この「無理ゲー」な林業に挑み続けています。
それは、林業が「数十年、数百年」という単位で地球の景観をデザインできる、唯一無二の仕事だからです。
先代が植えた木を私たちが使い、私たちが植えた木を50年後の孫世代が使う。この圧倒的に長い時間軸は、刹那的にモノやコトが消費される現代社会において、最高にクリエイティブで贅沢な経験だとも感じています。
実際、この魔境にチャレンジする新世代の企業が生まれているのも事実です。
環境問題の認知の広がりや国土を覆いつくす森という資源を国家の強みとして再認識する動きなど、マクロな追い風も吹き始めています。

林業の魅力
最後に、具体的な林業の魅力についても見ていきましょう。

時間軸が長い
それは、非常に時間軸の長い仕事である、ということです。
現代社会においてはあらゆるモノ、サービスが瞬く間に過剰に生産、消費されるため、そのうねりの中で働くことを余儀なくされます。
その一方で林業は数十年、数百年という単位で森林とかかわることができます。
祖父母の代に植えた樹木を孫世代で使わせてもらう、ということもよくあります。

自然の中で仕事ができる
林業は当然山での作業がメインになるので、自然の中で身体を動かし、休憩を取りながら働くことができます。
自分の身体と向き合いながら働ける機会は実は非常に貴重なのかもしれません。
特に私が研究を通して出会った林業従事者の方は、皆さん非常にお若く体力にあふれる方でした。

まとめ:林業を「逃げ場」にしてはいけない
林業は、都会の喧騒から逃れるための「癒やしの場」ではありません。
むしろ、全産業で最もタフな肉体と、最も高度なビジネススキルを要求される「真のプロフェッショナル」の道です。
もし、この記事を読んでもなお「それでも山をやりたい」と思える覚悟があるなら……。
その時は、ぜひ一緒に、この「つづく地域」をつくるための難問を解き明かしましょう。

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