カーボン・オフセットとは?その意味や背景について徹底解説!

サステナビリティ

ここ数年で一気にトレンドワードとなった「サステナビリティ」
サステナビリティ(sustainability)
とは、持続可能性のことを指し、
あらゆる社会活動で重視されるようになってきています。

まさに、行政から民間、個人に至るまでサステナビリティに対して一定の理解とスタンスが必要な時代です。

そこで今回は、民間部門での二酸化炭素排出量削減の取り組みの1つとして注目される、カーボン・オフセットについて1から学ぶことができるコンテンツを書くことにしました。

特に

カーボン・オフセットについて学びたい
サステナビリティの基本的な考え方を学びたい

自社でカーボン・オフセットに取り組みたい

という方におすすめの記事になっていますので、ぜひご覧ください!

二酸化炭素はなぜ重要?

カーボン・オフセットという今回のテーマに入る前に、まずは前提となる二酸化炭素の重要性についての理解を深めていきましょう!

まず始めに、地球の中での二酸化炭素の動きについて整理をしてきます!


二酸化炭素炭素は大気中に0.03%ほど含まれています。
とても少ないように見えますが、動植物が生きていく上で非常に重要な役割を果たしています!

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屋久島の渓谷

植物は、太陽の光エネルギーを使って、CO2に含まれる炭素(C)どうしをくっつけ、糖分(栄養)を作ります。そして、必要があればその糖分を分解し、エネルギーを取り出し(呼吸)、物質の合成や輸送を行います。

そして、太陽エネルギーを直接利用することができない動物達が植物を食べ、その動物をまた別の動物や食べ・・というように植物を中心として食物の連鎖が広がっていきます。食物連鎖は植物が作ってくれた貴重な物質(例:糖分、タンパク質)をバトンのように渡していくリレーです

そして、呼吸や微生物の働きによる動植物の死体の分解を通して、植物が取り込んだ炭素が再び大気中へと戻っていきます


このような二酸化炭素の循環を踏まえると、植物が取り込み、バトンパスされ、大気に戻る二酸化炭素の総量は一定である、という気がしますね。

実は、現在の地球では、二酸化炭素の量は主に2つの要因で増え続けています。

①化石燃料(昔の動植物の死骸が固形化、液状化したもの)の使用による、地中に埋蔵されていた炭素の放出
②森林の減少による炭素の吸収量の減少

排出量は増え続けているのに、吸収量は減っているという状態です。

また、二酸化炭素は、熱を閉じ込める効果(温室効果)を持っており、温暖化の原因として、問題視されています。

つまり、二酸化炭素の量が増え、温室効果が増大していることが地球温暖化の原因となっています。

地球温暖化によって、海水温や地表の気温が上昇し、自然環境が変容しています。

何億年もの生存競争の果てに最適化し、ポジションを確立してきた生き物にとってはわずかな水温・気温/降水量の変化も命取りです。
当然、人類と関係の深い農作物や樹木も例外ではありません。

最終的にその影響は社会に返ってきています

直接的には、一次産業を始めとした、”生産”に関わる営みが被害を受けています。

私自身、フィールドワークをする中で、豪雨や異常気温の影響で農林業が壊滅的な被害を受けている現場を目の当たりにしてきました。

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暴風雨でなぎ倒されたスギ林

二酸化炭素の排出量増加→環境変化→生態系の劣化→一次産業への被害という流れが生まれています。

したがって、二酸化炭素の排出を抑制することは社会全体の持続可能性(サステナビリティ)を向上させていくことにつながります。それ故に非常に重要なテーマなのです。


現在の地球では、地球温暖化に加えて、過剰な資源利用による海洋汚染、水源枯渇、土壌劣化、というような問題も深刻化しており、生産活動へのしわ寄せが積み重なっている状況です。

今、問われているのは”このままでは続けられない”という現実にどう向き合うかということです。

”続けられない”社会システムを少しでも”続けられる”ものに変えるためのきっかけとして、二酸化炭素の排出量削減に注目が集まっています。

カーボン・オフセットとは

そんな背景がある中で、国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)等の国際会議で二酸化炭素炭素の排出量削減目標が世界各国に課されています。

国家単位での二酸化炭素排出量の削減は避けられないテーマとなっています。

国家単位で二酸化炭素排出量を削減していく中で、当然民間部門の取り組みも欠かせません。
そこで、民間部門の取り組みとしてカーボン・オフセットが注目されています。

※日本の温暖化対策について詳しく知りたい方はぜひ、環境省HPをご覧ください。

カーボン・オフセットは英語に直すと”Carbon offset“です。

直訳すると炭素の相殺

カーボン・オフセットの定義について、「森林吸収源、カーボン・オフセットへの取り組み」という書籍でわかりやすく説明されていたので引用させていただきます。

私達の日常生活で排出削減努力しても排出せざるを得ない分を森林による吸収量やクリーンエネルギーによる排出削減量で相殺(オフセット)するもの

小林紀之(2010)「森林吸収源、カーボン・オフセットへの取り組み」,林業改良普及双書

ここでの相殺(オフセット)とは、

排出せざるを得ない分を排出した主体(例:企業)が排出削減した主体(例:森林を管理している企業)が発行するクレジットを購入すること

です。クレジットというのは排出量削減分に応じて発行される、二酸化炭素を排出する権利のようなものです。

そんな権利があるのか!

と思う方もおられるかと思いますが、古くは16世紀のスペインにおいて、水を使用する権利の取引が行われていたという記録があり、世界各国で水の使用権や化学物質の排出権が設定されてきた歴史があります。

つまり、特定の環境内において、理論的に許容される排出/利用量を関係者で分け合い、その余剰/不足分を関係者間で取引する仕組みは昔から存在していたということです。

カーボン・オフセットにおいても、クレジットを購入することで、購入者はクレジット分の二酸化炭素排出量を自分が削減したものとしてみなすことができます。

日本では、J-クレジット(旧J-VER制度)という制度上でカーボン・オフセットが進められています。

また、国ごとにクレジットの発行条件(例:森林による炭素吸収をクレジット化するかどうか)等は異なります。

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出典:https://japancredit.go.jp/about/outline/,2022/03/30参照,

クレジットの創出者、購入者にはそれぞれ以下のようなメリットがあります。
クレジットの創出者→資金確保、ネットワーク構築
クレジット購入者→PR効果、商品・サービスの差別化

例えば、特定の商品、サービスの生産に際して排出された二酸化炭素をオフセットし、環境性を新たな価値として付与することができます。
また、創出者、購入者との間で新たな連携(例:企業の森、サービスの提供)を生み出す可能性もあります。

近年のJクレジットの動向としては、下図に示す通り、プロジェクト件数も徐々に増加してきています。

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出典:「Jクレジット制度について(データ集)」https://japancredit.go.jp/data/pdf/credit_002.pdf,p.3

今後は、さらなる普及に向けた認知拡大、制度設計が求められます。

Jクレジット制度の詳細については、以下のリンクを参照していただければと思います。

https://japancredit.go.jp/data/pdf/credit_001.pdf

カーボン・オフセットのこれから

カーボン・オフセットは、二酸化炭素排出量の増加を抑制し、社会の持続可能性を高めていく手段になり得ます。

ただし、今後の発展においては取り組むべき課題も存在します。

①認知度の向上

現時点では、クレジットを購入する企業側に明確なメリットが存在しません。特に森林と関わりがない商品やサービスを扱う企業にとっては、CSR等に活用の場が限定されるように思います。

そこで、社会全体におけるカーボン・オフセット、ひいてはサステナビリティの認知拡大に務める必要があります。

そのためには、新たなオフセットの方法論の開発による、プレイヤーの参入促進ワークショップや学校教育を通した自然に対するリテラシーの向上が必要です。

そうすることで、クレジット購入によるメリット(例:競争優位性の付与)を伸ばしていくことが可能です。

バーチャルな議論に留まらず、興味のあるテーマの生産に少しずつ携わるようなポジティブな方向性の活動も必要になるかと思います。

②認証コストの高さ

Jクレジットでは、クレジットの発行の信頼性を担保するために、第三者機関がクレジットの審査を行います。

当然、審査に際して時間的、経済的なコストが発生します。
例えば、クレジット購入者側は、クレジット購入費用に加えて、取引の手数料を負担する必要があります。

今後は、炭素削減量/固定炭素量の計測、認証プロセスの効率を向上させる他、ブロックチェーン等の技術を援用したシステム開発が求められます。

おわりに

いかがでしたか?かなりボリュームのある内容だったかと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございます!
至らない点や間違い等ありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

こちらの記事を通して二酸化炭素の重要性カーボン・オフセットの概要についての理解を広められれば幸いです。

カーボン・オフセットはじめ、サステナビリティに対する国際的な注目の高まりは日本にとっては大きな転換点になるはずです。

日本では、石油化学に関わる産業が産業を牽引してきましたが、いずれの産業もサステナビリティを担保しない限り、売上に見合った企業価値の評価はされにくい時代になっています。したがって、産業構造や事業のモデル自体の変革が求められています。

その一方で、日本は森林大国(※森林率世界2位)であり、サステナビリティへの注目を追い風にできるポテンシャルがあります。
私も、森林を起点に、脱炭素、素材、エネルギー各領域で新たな可能性を広げていく力になれればと思っております。

こちらの記事を読んで、

日本の森林について1から学んでみたい、という方に以下の書籍はとてもおすすめです!

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参考資料

カーボン・オフセット、地球温暖化対策について参考にした資料をまとめました。

ぜひご覧ください。

ー書籍

https://amzn.to/3VAmNC9
https://amzn.to/3Go4YC7
https://amzn.to/3hWRFiK

ー省庁資料

https://japancredit.go.jp/data/pdf/credit_001.pdf

https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_credit/pdf/001_05_00.pdf

環境省_カーボン・オフセットwww.env.go.jp

ー論文

https://fsi-live.s3.us-west-1.amazonaws.com/s3fs-public/WP74_final_final.pdf

ーweb記事

ブロックチェーンで進化する「J-クレジット制度」―“脱炭素”化社会の実現のカギ | エッジな視点 | EL BORDE(エル・ボルデ) by Nomura - ビジネスもプライベートも妥協しないミライを築くためのWEBマガジン
政府が推進するデジタル化によって、さらにその利用が加速しそうな「J-クレジット制度」。脱炭素化社会の実現に向け、どのような役割を果たすのか。

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