「日本の水源が中国に買われている」は本当か?林野庁の最新データから見る外資による森林取得のリアル

「日本の豊かな水源地が中国資本に買い叩かれている」。SNSや一部のメディアで頻繁に目にするこの言説は、日本の安全保障上の大きな懸念として議論を呼んでいます。

しかし、感情的な議論が先行する一方で、具体的な「数字」に基づいた実態が語られる機会は多くありません。

農林水産省(林野庁)が令和7年9月に公表した最新の調査データは、私たちが抱くイメージとは異なる現実を示しています

本記事では、公表されたばかりの一次情報に基づき、外資による森林取得の真実を論理的に整理します。


目次

森林取得の0.003%という数字が示す現状

令和6年の1年間で、外国法人等によって取得された森林面積は382haです。これは、全国の私有林面積(1,431万ha)の0.003%に過ぎません。

平成18年からの累計で見ても、その面積は10,396ha。割合にすると0.07%です。
この数字を見る限り、少なくとも「急速な勢いで日本の山が外資に飲み込まれている」という統計的な傾向は見られません

【参考情報】

外国資本による森林取得に関する調査の結果について

外国法人等による森林取得の推移(累計)

区分令和6年取得面積累計面積(H18〜R6)私有林に占める割合
海外居住の法人・個人171 ha3,044 ha0.02%
国内の外資系企業211 ha7,352 ha0.05%
合計382 ha10,396 ha0.07%

なぜ「水の持ち出し」事例は一例も報告されていないのか

水源買収説で最も懸念されるのが「地下水の無断採取と海外への持ち出し」です。

しかし、林野庁の調査が始まって以来、外国資本が取得した森林において、取水を目的とした開発事例はこれまで一例も報告されていません。

これには、日本特有の法規制が関係しています。

簡単にいうと、日本はめっちゃ規制が厳しい&規制が機能しているほうではある(行政が世界でトップレベルに機能している)んですよね。。。

  • 土地所有権と水利権の分離
    • 日本では土地を所有していても、河川水や地下水を自由に汲み上げ、商用利用できる権利(水利権)が自動的に付与されるわけではありません。
  • 自治体による条例
    • 多くの自治体では独自に「水源地域保護条例」を制定しており、重点地域での土地取引には事前届出を義務付け、適正な利用を厳格に管理しています。

つまり、物理的に土地を占有できたとしても、法的に「水を勝手に抜き出す」ことのハードルは極めて高いのが実務上の現実です。


米国5.0% vs 日本0.07%。国際比較から見える視点

今回の調査で注目すべきは、米国との比較データです。米国における外国人等による森林の所有割合は5.0%に達しています。

日本の0.07%という数字は、グローバルな不動産投資市場という観点で見れば、依然として極めて低い水準にあります。

日本の森林が外資にとって魅力的な投資対象になりきれていない(収益性が低い)という側面も、この数字の裏には隠れています。


「重要土地等調査法」による法的ディフェンス

数字上は少ないとはいえ、安全保障上重要なエリア(国境離島や自衛隊施設周辺など)での土地取得については、防衛的な法整備が進んでいます。

重要土地等調査法に基づき、指定された区域内での土地売買には事前届出が義務付けられ、不適切な利用がある場合には国が勧告や命令、さらには土地の買い取りを行うことが可能になりました。

森林法の届出制度と合わせ、二重、三重のブレーキがかけられている状態です。

【参考情報】

内閣府|重要土地等調査


飯能・吾野の現場から:真に警戒すべきは「外資」か「放置」か

私自身、飯能市の山林現場で活動していると、外資による買収よりも、はるかに深刻で差し迫ったリスクを感じます。

それは、「日本人の所有者による山林の放棄と、それによる所有者不明化」です

外資が取得する際は、必ず森林法に基づく届出がなされるため、むしろ「誰が持っているか」が行政によって捕捉されています。

一方で、国内の相続によって放置された山林は、境界杭すら分からず、土砂崩れや不法投棄が起きても責任を追及できない「空白地帯」になっています。

真に水源を守るために必要なのは、国内の地主が自分の山の価値を再認識し、適切に管理・流通させる仕組みを構築することにあると、現場の視点からは断言できます


結論:ファクトに基づく冷静な水源保護を

「中国による水源買収」というトピックは非常に刺激的ですが、林野庁の最新データを見る限り、その規模は限定的であり、法的な防波堤も構築されつつあります。

特定の国への恐怖心から議論を飛躍させるのではなく、日本の山林をどう維持・管理していくかという本質的な議論に向かうべき時期に来ているのではないでしょうか?

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この記事を書いた人

京都大学で森林科学を専攻し、ITベンチャーや外資系コンサルで培った戦略的視点を強みに、農地・山林の売却、利活用、相続対策の情報を発信中。

現在は、埼玉県飯能市で築160年の古民家民泊を経営する傍ら、地域の土地活用コーディネーターを務めています。
「負動産」を収益資産へ変える専門家として、実務とWebマーケを融合。
現場経験に基づいた農地法・森林法対策を武器に、全国の土地オーナーの課題解決を支援しています。

お困りのことがあればぜひご相談ください。

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